薄暗い部屋に少し暖かい風が入ってきた。
その風にふと、上京した頃の気持ちがよぎってなんだか懐かしい気持ちになる。特別な出来事があったわけではないけれど、静かで穏やかな日の記憶。
「いろんなところにいるよね」と言われることが多いけれど、変わらず東京にいる。
今は千駄ヶ谷を拠点にしていて、この街がとても気に入っている。
撮影でいろんな土地に行けるのは想像もできなかったけど、やっぱり楽しくて嬉しく思います。
地元・福島で映像制作のキャリアをスタートし、二度目の上京を経て三年前にまた東京に戻ってきた。
二度目とはいえ引っ越しの準備はバタバタで、ただただ一日でも早く東京に戻りたいという気持ちだったことは今でも鮮明に覚えている。
そのせいで機材や撮影衣装などたくさんの荷物を地元に置いたままだった。でも最近、その地元の拠点にも一区切りをつけようと思いすべて整理してきた。
とはいえ整理というよりは、むしろ断捨離に近かった。結局ほとんどの荷物は手放すことにした。なんとなく、そうすることで少しでも前に進めるような気がした。
東京に何を持って帰ろうか散々悩み、両手いっぱいに荷物を抱えて新幹線の終電にギリギリ間に合うようにタクシーに飛び乗る。
結局、長年撮りためた古いフィルムのネガと、haruka nakamuraのレコードを何枚か手に取り
本当に大切なものって両手に抱えられるくらいしか持てないんだな、と。改めて気づかされた。
地元の心地よさも、東京でまだ見たことのない景色も、どちらも好きだ。
今まで帰る場所を探していたわけじゃないけれど、これからの自分はどこに帰るのだろう。
最近はよくそんなことを考えるようになった。今この瞬間も自分の居場所を探しているのだと思う。
sakument
